気ままに誤読録

著者の意図とは違うかもしれないけど、自分なりの気づきを「誤読」として紹介していく、そんな読書ブログです。

【日本一社員が辞めない会社】(小池修)①

ご本人の両親の介護施設探しから、入居者に対するリスペクトのなさに愕然とし、「だったら自分で作ってやる」と、異業種から転身して介護会社を立ち上げた著書の小池さん。

 

介護業界はその労働環境から非常に離職率の高いことで有名です。そんな環境で試行錯誤のうえ、定着率96%という脅威的な数値を達成した方のお話しです。

 

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いつもは自分の専門分野の視点で感想を書いてますが、たまには専門外のビジネス的な気づきから。

 

介護ビジネスは基本的に労働集約の稼働率ビジネスなので、人や拠点を増やしてもコスト経済性は上がらないのですが、じゃあどういうときにどういう目的で拠点を増やすの?という点でわかりやすい事例でもありました。

 

小池さんが「高い離職率の主要因」の1つとして直面したのが、「従業員が有給休暇をとれない」という状況。


当初は1拠点の人数カツカツ状態で回しており、従業員が有給休暇をとれるようにするためには増員する必要があるけどコスト的に雇えない、どうしよう?という状況だったそうです。

 

そこで小池さんが考えたのが「もう1拠点増やす」ということ。

 

1拠点だと1人の遊軍要員はコスト的に雇えないけど、2拠点で1人であればなんとかなる。

 

そこで拠点を増やし、なんとか2拠点目も軌道に乗せ、キャッシュの総量を増やす(限界利益の総量を増やす)ことで遊軍要員を採用し、有給休暇がとれる状況が確保できたそうです。

 

と、理屈はいたってシンプルですが、当然、拠点を増やしたらサクっと事業が回ってすぐに限界利益の総量が増えるというわけではないですよね。

 

拠点を用意して、人を採用して、教育して、営業して、オペレーションを回すというプロセスが必要なので、あまり書かれていなかったですけど、もう1拠点の稼働率ビジネスを立ち上げ、回すということにしっかり取り組まれたからこその成果だと思いました。

 

ということで、サービス業(稼働率ビジネス)で拠点を増やした場合、コスト効率性はあがるわけではないが、キャッシュの総量は増える。この理屈を踏まえて経営者としてどう取り組むか。

 

小池さんのように、

 

従業員に有給休暇を取得させるために増員が必要 

→ 増員するためにキャッシュが必要 

→ だからそのキャッシュを確保するために拠点を増やす

 

というように、「こうしたい」という事業目的のためにキャッシュが必要という思考の人は、あまり道を踏みはずすことはないんじゃないかなと思います。

 

こう書いていて思い出したのが、ある漢方薬局の方。

 

親から漢方薬局を継いだあと、膨大な借金があることが発覚し、その返済方法を日夜考え続けた結果、思いついた策が「ショッピングセンターにもう1店舗出す」でした。

 

ロジックは全く同じ。コスト効率は上がらないけど限界利益の絶対量を増やすことで、なんとか借金を返済したそうです。

 

これも「借金返済」という目的のための「キャッシュ総量を増やす施策」ですね。

 

一方でヤバいパターンは、キャッシュの総量を増やすことそのものが目的になってしまっている場合。その場合は、際限がなくなります。

 

グレイテスト・ショーマンのジェニー・リンド(通称:ネバーさん)のように、いくら稼いでもNever Enough。満たされることはありません。

 

ひたすら「Never~♪Never~♪」と歌い続けることになります。

 

そして多店舗出店が行き過ぎ、オペレーションが回らず、品質が悪化し、顧客が離れ、不採算店舗増→業績悪化という様式美はよくみられる光景です。

 

ということで、キャッシュの総量を増やすことを自己目的化することなく、「キャッシュはあくまで事業目的を実現するための原資」と捉えることの大事さ、当たり前の話ではありますけど、改めて小池さんの事例から認識した次第です。

 

それでもなお、、、それを自己目的化する例をよく見かけるのは、それだけお金の魔力が強いということでしょうか。

 

ちなみに上場しちゃってる場合は株主や投資家が「Never~♪Never~♪」と言ってくるので、仕方なく際限のないデスマーチを歩まざるを得ない場合もあります。

 

その場合、働いてるほうはつらいんですよねー。給料が増えるわけでもなく、「何のために?」がないまま、「今年度の利益をこれだけ伸ばせ。以上!」と言われるあの空虚感、思い出すなぁ(^^;)

 

と、前座の話だけでまた長くなってしまいました。。。


どうやって定着率を向上させたか、の本論のほうはまた続編で明日にでも( ̄▽ ̄;)