気ままに誤読録

著者の意図とは違うかもしれないけど、自分なりの気づきを「誤読」として紹介していく、そんな読書ブログです。

本気で社員を幸せにする会社(やつづかえり)を読んで、想いあっての施策だなぁと改めて思った話

引き続き幸福経営に関する本です。

幸福経営に関するインプットはほぼ前野教授の本に頼っていましたが、友人からの紹介で面白い本に出会えました。

幸福経営の現場のリアル、とでもいいましょうか。

この本では10社くらいの事例を紹介されているのですが、今回は私がもっとも印象に残った「パプアニューギニア海産」という天然エビの輸入・加工・販売をされている会社の事例を中心に、いくつか思ったこと、感じたことを書いてみたいと思います。

 

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「経営者の強い想い」があってこその施策 

 

パプアニューギニア海産が実践している幸福経営での有名な施策は以下の2つです。

 

  • フリースケジュール
  • 嫌いな作業はやらない

 

【フリースケジュールとは】

工場において、パート従業員の誰がいつ働くかをあらかじめ決めないこと。それはつまり、その日になってみないと誰が来るかはわからないということ。極論をいうと、パート従業員が1人も出勤しない可能性もあるということ。

出勤する日だけではなく、出退勤時間も、いつ休憩を取るかも自由。工場の操業時間内という制限はあるが、極論、毎日フルタイムで働いても月に1回数時間働いても構わないという制度。

 

【嫌いな作業はやらないとは】

工場では2か月に1度ほど全パート従業員を対象に書く作業の好き嫌いを問うアンケートを行って、そこで「嫌い」と答えた作業はやらないというルール。

工場での各作業は特殊なものはなく、パートとして入って1~2週間やれば覚えられるものなので、全員が一応全部できるという前提のうえで、「好き・嫌い」という気持ちを表明し、それを仕事の割り振りに適用している。

 

これだけ読むと、「ほんまにこれで回るのか?」と感じると思いますが、そこはかなり緻密に「やっても大丈夫」と実感できるまで検証したうえで実行されています。なので、平たく言うと、結果としてオペレーションは普通に回っています。

 

そして、ここで一番大事なポイントは、この取り組みを参考にしたいと思う他社の人は

「どうすればうちの会社にフリースケジュールを導入できるだろうか?」という施策ありきのアプローチで考えたらダメ

だということです。

 

1on1とかもそうですけど、「とりあえずこの施策を入れたらうちの会社もうまくいくんじゃないか?」的な安易な発想ではうまいこといきません。

 

最初に絶対持っていなければならないのは、経営者や現場のマネージャーなど、施策を導入する立場にある人の「強い想い」です。

 

そもそも、この会社を、この職場を、どういう景色に変えたいのか?

それを本当に心から思っているのか?

 

それが出発点であり、その想いが大前提です。

 

そしてこのパプアニューギニア海産の武藤社長が抱いている想いは何かというと、ある出来事をきっかけに抱いた「働く人たちが好きになれる会社にしたい」ということです。

 

「その想いを実現するには?」と考え続け、試行錯誤を続けた結果、たどり着いたのが「フリースケジュール」と「嫌いな作業はやらない」という施策だったということですね。逆に言うと、仮にその想いが別のことであったならば、別の施策を採用することになったと思います。

 

このように、「まずは想いありきで、施策はそれに従属するもの」という、言われてみれば当たり前のことですが、1on1のように、その点を踏まえずに流行りの施策に飛びつきがちな会社も多いと思いますので、改めてその大事さを感じさせるエピソードでございました。

 

緻密に練られた「幸福軸のオペレーション戦略」

 

この会社のオペレーションの工夫と検証の緻密さは、「幸福軸でのオペレーション戦略」ともいえるじゃないかと思わせるほど、なるほどー!と私は思いました。

このへんの細かい話もいろいろご紹介したい気持ちもあるのですが、それを書き出すとこれまたえらいボリュームになりますので(笑)、1つ事例を挙げますと、「嫌いな作業はやらない」の施策において、

 

嫌いな作業は「やらなくてもよい」、ではなく、「やってはダメ」

 

 

というルールにしている点です。

 

これをもし「やらなくてもいい」というルールにすると、それは裏返すと「やってもよい」という選択肢が残ることになります。

 

そういう状況だと、「嫌な作業をやらない人」は「自分勝手な人」と思われてしまうという、心理的な怖れ、罪悪感を感じてしまうので、結果、その罪悪感を回避するために「嫌な作業をやる」という結果になってしまいます。

 

そうならないように、そのような心理的な動きも想定したうえで、ルールとして「やってはダメ」ということにしているんですね。

 

また、「嫌な仕事だけどやったほうが成長につながる」という側面もあったりします。そのような場合は、パート従業員が自ら定期的に実施される「好き嫌い表」のアンケートへの記入を工夫して、「嫌いだけど、やって成長したいから、嫌いに〇をつけない」といった運用の工夫をされているとのことです。制度を逆手に取るといいますか、うまいことやってるなー、と感じました。

 

これは一例ですが、そのほかにもオペレーションの工夫をいろいろされていますので、興味のある方は是非本を読んでいただければと思います。

 

施策導入の効果

この「フリースケジュール」「嫌いな作業はやらない」という施策導入の結果、離職率が激減し(ほとんど辞めない)、採用コストも激減(募集すればたくさん応募が集まる)したとのことです。

 

大企業だと解雇規制によって人は余っているので、生産性向上がメインの課題になりますが、人手不足の世の中において中小企業にとっては、採用と離職率が喫緊の課題です。この点からも、パプアニューギニア海産では、その独自の働き方改革、というよりもむしろ働き方革命により、その課題を解決している形になります。

 

また、離職率が下がるということは従業員の経験曲線も上がっていくので、生産性も上がっていきます。いいことづくめですね。

 

で、もう一度施策導入の前提に立ち返ると、ここはパラドクスになるのですが、生産性、離職率ドリブンで施策を進めようとすると、おそらくうまくいかないと思うんですよね。そこをこれまでと違う発想で、「従業員の幸福」ドリブンで、どうすればそれを実現できるかという視点で施策を考え、その結果、従業員が幸福になり、離職率が下がり、採用コストも下がり、生産性もあがる、という順番で考えることができるか。

 

その意識転換がこれからの会社の成否を分けるのではないかと個人的には思っています。

 

その他

施策は想いありき、という話を最初に書きましたが、一方でとりあえず手っ取り早く取り入れちゃえばいいのでは?と思う施策もあります。

 

それは「ウィルド」社が採用している「おやつタイム」です 笑

 

【おやつタイムとは】

・毎週火曜日15時から15時半に実施(その間は就業扱い)

・お菓子代は会社負担(予算は1人500円まで)

・全員仕事から離れる

・みんなでおやつを食べる

・プライベートな話をする(趣味、育児・家事、週末の出来事など)

 

どうでしょう?

これは職場単位で、マネージャーの意志1つで(予算の部分を除けば)やろうと思えばできますよね?

 

この施策の効果としては、社員それぞれの趣味や価値観、生活の状況などについての理解が深まり、互いのプライベートを尊重しようという気持ちが生まれ、社員同士は自然と助け合って仕事ができるようになり、業績アップにつながったとのことです。

 

これは幸福学の理論に当てはめても自明ですね。この取り組みによって、幸福の4因子のうち、「ありがとう因子(つながりと感謝)」「ありのまま因子(独立と自分らしさ)」がダイレクトに上がります。それは幸福度が高まるということなので、その結果生産性も創造性もあがるので、業績アップにつながるというのも不思議ではないです。

 

ちなみにこれはホワイト企業大賞受賞の西精工社と同じような取り組みですね。西精工の場合は、このようなプライベートの話も含めた雑談を毎朝1時間行っているとのことですが、毎朝1時間はちょっとハードル高いという人も、おやつタイムの週1回30分であればハードルも低くないですかね?

 

これはお菓子好きな私としては、ぜひ多くの職場でやっていただけたらなぁと思ってます 笑

 

以上、思ったこと、感じたことについて書いてみました。

このような「社員の幸福を目指し、結果として業績も伸ばす企業」、増えていくといいですね。