気ままに誤読録

著者の意図とは違うかもしれないけど、自分なりの気づきを「誤読」として紹介していく、そんな読書ブログです。

【衰退産業でも稼げます】(藻谷ゆかり)

衰退産業と言われている商店・旅館・農業・伝統産業の復活ではなく、再生⇒発展事例がいろいろ紹介されている本です。

 

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著者はHBS出身で、外資系2社に勤務したあとインド紅茶の輸入・ネット通販で起業され、その事業を約20年継続し、今は大学教授や地方活性化や家業のイノベーション創業を支援する塾を主催されている方です。そしてお名前から「おっ?」と思った方もいるかと思いますが、「デフレの正体」の藻谷浩介さんは著者の義弟にあたるとのことです。
 


衰退産業を活性化させていくキーワードとして、この本では「ビギナーズ・マインド」「増加主義」「地産外招」の3つの視点が挙げられています。
 


まず「ビギナーズ・マインド」は、いわゆる「よそ者」によって、その事業を新しい視点で見つめてみるということですね。そうすることでその世界にどっぷり浸かってきた人には見えなかった価値が見えてきます。そういう人が衰退産業に関わることで、活性化の源泉となる宝を発見できるということですね。
 


たとえば事業継承においても、全くの外部の人に承継するのももちろんのこと、一旦外の世界で鍛えられた子供が家業に戻ってくる場合もビギナーズ・マインドで事業を捉えることになります。逆に、子供の頃から外の世界を知らず、ずっと家業をやってきた人にはこの視点が持てないので、衰退からの脱却というのは難しいのかもしれません。そういう場合は外の世界の目を持つ人を近くに置くなどの対応が必要になってきます。
 


つぎに「増加主義」。これはビギナーズ・マインドから繋がってくる流れですが、ビギナーズ・マインドで事業を捉えることで、新たな価値に気づく。それは眠っている価値を発見する場合もあれば、何かとの組み合わせにより価値が出るというイノベーション型の価値に気づく場合もあると思います。
 


そのように、「時が経つにつれて価値が目減りしていく」という視点ではなく、「時を重ねることで価値は増やしていける」という視点にたつということですね。この本では様々なアプローチで見事に価値を高めていった例がいろいろ書かれています。
 


そして「地産外招」。「外商」ではなく「外招」です。
「外商」は地方で作ったものを国内の大都市や海外で売っていくというスタイルで、これはこれで超大事なのですが、この本で紹介されている企業は、「外から人を招いてくる」ということもうまく事業に組み込んでいます。
 


たとえば「温泉に浸かるサル」をアピールすることで外国人客を呼び込むといったインバウンド型。また、そこまで派手な「外招」ではなくても、周辺地域からモノ買いや体験を求めて人が集まってくるような仕組みを作ったりとか。さらには、モノやサービスの提供ではなくても、海外の人とのネットワークを作り、海外の人から海外で売れるためのアドバイスを受けるという意味での外招も。そういういろんな形で外の人との接点を持っていく、そうすることで感情やストーリーを共有することも大事ということですね。
 


以上のような切り口から16社の事例が紹介されていますが、紙幅の関係からそれぞれカンタンな説明に留まっていますので、個別事例の深い話までは切り込んでいないのですが、読んで感じることは、タイトルのとおり、
 
衰退産業もやり方次第でまだまだイケル!
 
ということです。


 
ただ当然ながら先ほどの3つの視点を取り入れればカンタンにできますよなんて話であるはずがないので、今回取り上げられている16社も今の成功と言える状態に至るまでは相当な取組みとドラマがあったはずでして。
 


たとえば1つ事例をあげると、奥さんが嫁いだ先のお父さんにクーデターのように事業継承を迫ったという話があります。息子である旦那さんがじゃなくて、奥さんがです。事業が傾いてそこまでヤバイ状態だったということなんですけど、さらっと数行で書かれていましたが、ここに至るまでとか、そのあとの話とか、そのときそのときは本当に大変だったんだろうなと思うんですよね。
 


そうなるとですね、やはりそんな行動に突き動かすだけのパッションが私としては気になるわけです。
その感情のエネルギーはいったいどこから沸いていたのだろうかと。
 


ちらちらっとそれを匂わせるような情報が書かれていたりするのですが、才能開発を専門としている人間としては「そのへんもっと聞かせてくれ!」というモゾモゾ感を感じる本でもありました(笑)
 


衰退産業という切り口だけでなく、地方創生、事業承継という切り口でも参考になる本だと思いますので、そのあたりのテーマに関心のある方々も何かしらヒントがもらえる本なのではないかと思います。
 


おしまい。